スイッチOTCと同じ成分の医療用医薬品の処方状況の調査
当社(日本システム技術株式会社/略称 JAST)は、独自に保有しているレセプトデータを中心としたメディカルビッグデータ『REZULT』を基に、スイッチOTCと同じ成分の医療用医薬品の処方状況の調査を実施しました。
2025年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025」では、OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しが実施される方針が示されました。
本調査では、2024年4月から2025年3月の期間に処方された医療用医薬品のうち、スイッチOTCと同じ成分を含むもの(成分量や用法は問わない)を対象(以下「対象医薬品」)として、処方状況を調査しました。
スイッチOTCとは、医療用医薬品の成分のうち、有効性・安全性が確認されたものを、処方せんなしで薬局やドラッグストアで購入できるようにOTC医薬品として転用したものを指します。
本調査では、厚生労働省が公開している「日本におけるスイッチOTC成分(94成分)」に掲載されている成分と同じ医薬品を対象に、院外処方における薬剤料と調剤件数(対象医薬品が調剤された回数)を調査しました。
【集計条件】
利用データベース:当社の保有するレセプトデータベース(約1,070万人 2025年8月時点)
調査対象:2024年度の全薬剤及び、スイッチOTCと同じ成分の医療用医薬品の薬剤料と、調剤件数を調剤レセプトデータを対象に調査
調査期間:2024年4月~2025年3月診療分(12か月分)
参考資料:
経済財政運営と改革の基本方針2025
(https://jsite.mhlw.go.jp/hokkaido-roudoukyoku/content/contents/002308100.pdf)
日本におけるスイッチOTC成分(94成分)
(https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001413225.pdf)
令和6年度 医療費の動向
(https://www.mhlw.go.jp/topics/medias/year/24/dl/iryouhi_data.pdf)
令和6年社会医療診療行為別統計の概況
(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/sinryo/tyosa24/dl/gaikyou2025.pdf)
※上記PDFの「8 調剤行為の状況」より(該当箇所:13ページ)
【REZULTのデータソース】
・保険者由来のレセプトデータを中心としたデータベースです。
健康保険組合、共済組合のデータを収載しています。(新生児~働き世代中心)
・患者の追跡性に優れ、大規模病院~クリニック、調剤薬局、歯科と幅広く収載されています。
2024年度の対象医薬品の薬剤料と調剤件数
まず、対象医薬品の院外処方における薬剤料と調剤件数の割合について調査しました。
対象医薬品について、総薬剤料は全体の約3%、総調剤件数は約10%を占めていました。(図1)
また、年代別に調査したところ、薬剤料と調剤件数の割合に年代間の偏りが少なく、それぞれの年代で全体の割合と近しいことがわかりました。(図2)
年代別の患者割合が近しいということは、これらの医薬品が世代を問わず一定の需要を持っていることを示しており、汎用性の高い成分であることがわかります。
OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しについて、
仮に、スイッチOTCの成分(成分量、用法を問わない)すべてが、保険給付の在り方の見直しの対象となり、薬剤料が全額自己負担となった場合、
2024年度ベースだと、薬剤料全体の3%の医療保険の給付の減少が期待されます。
調剤件数としては全体の10%を占めているにもかかわらず、薬剤料で見ると3%ととなるのは、
成分によっては後発品が多くあり、薬価が低いものが多く存在するため、1件当たりの薬剤料が低くなることが要因として考えられます。
【図1】院外処方の薬剤料と調剤件数に対して対象医薬品の薬剤料と調剤件数が占める割合
【図2】院外処方の薬剤料と調剤件数に対して対象医薬品の薬剤料と調剤件数が占める割合(年代別)
対象医薬品の成分ごとの薬剤料と調剤件数
次に、院外処方における対象医薬品の成分ごとの薬剤料と調剤件数について調査しました。
成分ごとの構成比については、薬剤料と調剤件数ともに、割合の高いトップ5種の成分で全体の50%以上を占めていました。(図3)
対象医薬品の中でも、薬剤料、調剤件数ともに成分によって処方状況に偏りがあることがわかります。
また、成分ごと見ると、薬剤料と調剤件数のトップ4種の成分が同じであることがわかります。(図3)
スイッチOTCの成分のうち、それら4成分の医療現場における処方頻度の高さが見て取れます。
薬剤料と調剤件数で順位が一致しないのは、各成分の薬価や処方パターン(処方量・期間)の違いによるものであると考えられます。
これらが仮に、保険給付の在り方の見直しの対象となり、薬剤料が全額自己負担となった場合、
患者の自己負担額増によって受診行動に影響を及ぼす可能性が考えられます。
【図3】院外処方における対象医薬品の成分ごとの薬剤料と調剤件数の割合(トップ5種とその他)
今回は、院外処方におけるスイッチOTCと同じ成分の医療用医薬品の処方状況の調査を行いました。
スイッチOTCと同じ成分の医療用医薬品の処方状況を分析した結果、2024年度において、薬剤料と調剤件数ともに年代ごとの偏りは少なく、
薬剤料で全体の約3%、調剤件数で10%を占めていること、また、薬剤料および調剤件数の分布において、特定の成分に使用が集中している傾向が確認されました。
厚生労働省の令和6年度の医療費の動向によると、調剤レセプトの総計が約8.4兆円であったことが公表されています。
令和6年社会医療診療行為別統計の概況によると、薬局調剤1件当たりの「薬剤料」は総額の約72.1%を占めており、
これらを基に算出すると、2024年度の院外処方における薬剤料の総額は約6兆円となります。
スイッチOTCの成分すべてが薬剤料の全額自己負担の対象となった場合、約1,800億円の医療保険の給付の減少効果が期待されます。
OTC類似薬の保険給付の在り方の見直しが実施される方針が示され、様々なところで活発にその議論が行われています。
今回はスイッチOTC成分に絞って分析を行いましたが、医療用医薬品と同じ成分を含むOTC医薬品はスイッチOTCの成分以外にも多数存在しており、
例えば、ヒルドイドなどの医療費への影響が大きいとされるものは、スイッチOTCの成分以外の医療用医薬品と同じ成分を含むOTC医薬品に含まれます。
今後の制度改正にあたっては、対象成分の選定状況やその影響評価について、引き続き注視していきたいと考えます。
当社では、データヘルス計画の策定支援や事業実施支援として、適正服薬に関して啓発通知から効果分析まで行っています。
他にも、1,000万人を超える匿名加工済みのレセプト・健診データ等の医療リアルワールドデータによる地域差分析やペイシェントジャーニー(※1)などアドホック分析やデータの販売を行っております。
※1 患者が病気を認知し、医療機関へ受診、そして治療となるまでの一連のステップ。
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